不評な映画を観た話(甘口バージョン)

『大怪獣のあとしまつ』を観ました。

最悪、の二文字で言い尽くせるということでもっぱらの怪作をね、観ちゃった。すごい映画だった。なんていうか、鵺みたいな映画でしたね。鵺。頭と胴体と脚と尻尾が全部違う生き物でお馴染みの鵺。もしくはミュルメコレオ。頭がライオン、体がアリのミュルメコレオ。

本記事では、そんな奇妙な映画について、なるべく肯定的に語ってみたいと思います。検索したら批判は浴びるように読めると思うので。珍しい肯定的な記事として書きます。というか駄作は叩いていいという風潮もあまり好きではないので……。

ただまあ、私の評価がマイルドに言って「鵺」とか「ミュルメコレオ」だった点から色々察して貰えると嬉しいです。はい。

そういうわけで、あまり世に出したくはないが言いたくもなる不満点を若干キレながら書き連ねた辛口バージョンをご用意しました。物好きだけが見てくれ仕様にしたかったのですが、はてなブログだと記事へ個別に公開制限をかけられなかったので、noteの有料記事機能を使って書きました。物好きな方はぜひどうぞ。いただいた100円はコンビニで千切りキャベツを買う費用にあてます。

不評な映画を観た話(辛口バージョン)|兎乃ぱふぇ|note

 

 

というわけでよかった点ですが、まずは大怪獣の死体の後始末をするというコンセプトです。これ特撮好きな方々からは特に目新しいものでもないじゃないかとの批判を浴びていたのですが、特撮に造詣が深くない私のような人間には「へーそこを切り取るって面白いな」と思わせたので、すごく評価できると思います。

アイディア自体が画期的なわけではないけど、知らない人に興味を持たせるというのはすごく意義があると思うので。宣伝の仕方に難ありかなとは思いますが、コンセプトそのものは批判されるような悪手ではなかったのかなと。というか、死体処理については他作品でも触れられはしますが、それ「だけ」にフォーカスした作品ってのは珍しくないですか?私が知らないだけ?

 

次によかったなと思ったのは、コミカルなテイストにしたこと。これも正直なところ批判はされるだろうなと思いましたが、その存在意義については肯定的に捉えています。

ほら、怪獣映画にはどうしても緊張感がつきものじゃないですか。人類がこれまで出会ったことのない厄災とぶつかり合うわけですから当然といえば当然ですが、やはり緊張しっぱなしというのも観ている側からすればある意味では気が詰まってしまう部分もあるわけで。シンゴジラ好きだけどなかなか気軽に観よ!とはならない映画だからね……。そうした、いかにも緊迫感のありそうな作品の中にギャグシーンを散りばめることは、観客にとっての箸休め。だからギャグを入れて緩い空気感を吸わせ、肩肘張らずにラクに見られるようにした構成は悪くなかったように思います。

よく頭を空っぽにして見られる作品なんて言いますが、シリアスで堅苦しそうな作品に見せかけてゆるいギャグが多めの作品だったというギャップが本作にはあるので、その意外性を味わわせてくる点はわりと好きでした。是非はともかく。

お話の構成で言うならば、現場に出ている特務部隊の動きはおふざけなしで、その裏で政策を練る内閣府の面々はコメディリリーフで、と役割をきちんと分けていたところも悪くはなかったように思います。先程も同じ話をしましたが、緊迫した現場だけを見続けていると疲れますが、だからといって緊張感を削いでしまうのもよくないので。そう考えた時に、役割をきちんと分けることで棲み分けをさせた構造は古典的ですがよかったのかなと思います。

問題は緊張感が削がれすぎていなかったかという点ですが、まあそこは……。構造そのものが悪いわけではないと思ったので、やっぱり塩梅の問題ではあるんじゃないかなと思います。

また、現場での動きのみならず裏での取引きめいた話を入れるのも観客の興味を惹く工夫としてはよかったと感じました。なるほどここでこの人はこういうふうに動いていたんだな、という駆け引きを見るとやっぱりワクワクしますからね。ただその出来はあまり良くないと言わざるを得ないので、肩透かしを食らってしまった人は多いかもしれません。

 

そんな話の構成以外にもいいなと思ったのは、俳優陣の演技。特に主演の山田涼介氏の演技でした。顔立ちがはっきりしているので、特撮的というか、なんというかちょっと味付けが濃い芝居をしても浮かないんですよね。本作は特にキャラクターの味付けが濃い作品なのですが、それに負けない表情を作っていて、ああ顔の説得力ってこういうことなんだなと感じました。邦画にありがちなセリフの聞き取りにくさもなく、格好つけたセリフも嫌味なく聞けて、役者としての彼の才能を感じられました。というか実は演技してるの観たの初めてだったんですけど、真っ先にえっいいじゃん!と思いました。高評価です。

役者の演技といえば、オダギリジョーもめちゃくちゃよかったですね。出番が多いわけではなく、またセリフが多いわけでもない、見せ場が多いわけでもないんですが存在感はピカイチ。爆煙を背後にゆっくりとこちらに歩み寄ってくるテンプレートな画面でも見劣りしない存在感。ヘルメット被ってドレッドヘアで、工事現場スタイルで、なのに只者ではないと思わせるオーラを纏っていて最高でした。この役にオダギリジョーを起用したのは大正解ですね。かっこよかった。

あとは西田敏行演じる総理もよかったですね。情けなくて子供っぽくて頼らなくて、でも憎みきれないおじさん。そういう役を演じているのがよく似合っていて。

なんか全体的にわりとキャスティング上手いんですよねこの作品。この人にこれを演じさせたらいいだろうなというツボを押さえてきている。それはとても伝わりました。

 

などとつらつら語りましたが、総評としてはストーリーの骨子が悪いわけではなく、素材もよく、役者もいい。という点です。ただ問題はそれらが本当に、見ていて悲しくなるほど噛み合っていないところ。なんの化学反応も起きてないんですね。

たぶん、よかった点をつなぎ合わせる「物語の展開」とか「観客を惹きつけるトリック」とか「ギャグの配分や内容」なんかの要素が上手く機能してなかったからこうなったんだろうなーと思わざるを得ません。取り扱うテーマは面白そうと思わせてきたし、お話の作り方の骨組みも、どんな効果を狙っていたのかがわかるしそのチョイスもいいと思う。役者の演技はみんな良かったし役にマッチしている人もたくさんいた。だけど、それらが全然まとまっていない。つなぎを入れてないハンバーグみたいなんです。玉ねぎと、豚ひき肉と、牛ひき肉になってる。分裂しちゃってるの。合い挽き肉でもなくなっちゃった。あと、つなぎはないけどナツメグがめっちゃいっぱい入ってる。だからハンバーグじゃなくて、玉ねぎと豚ひき肉と牛ひき肉のナツメグ炒めデミグラスソース添えみたいな料理ができてる。そういう映画でした。

世間の言動はちょっと過激すぎますが、そういう旨みや良さをばらばらにしてしまうという点ではまあ世間的な評価が芳しくないってのはよくわかってしまう感じですね。悪い要素だけではないけど、その良さを味わい尽くせないほどのナツメグが入った謎炒めがこの映画なんだと思います。

ちなみにオチについてはさすがに庇いきれませんでしたが、いっそ馬鹿馬鹿しく、もうこういう方面に振り切って作れば良かったのに〜!と思いました。振り切ってたら絶対面白かったって。いや……、内閣を見るにそうはならなかったかな……、いやでも、今よりはきっとまとまりのある仕上がりになってたと思う……。

 

以上です。